両手いっぱいに、お皿を持って来てくれる輪吾くん。
【輪吾】
「つばきおねーちゃん。あいたおさら、もってきたよ」
【椿】
「ありがとう、輪吾くん」
いっしょうけんめいにお手伝いをしようとしてくれている姿はとってもかわいい。
【藤花】
「あら、輪吾ちゃん、お手伝い？ えらいわね〜」
【輪吾】
「うんっ」
【椿】
「お姉ちゃん、輪吾くんにお手伝いしてもらって、とっても助かっちゃうな」
【輪吾】
「……ほんとう？」
【椿】
「うん、本当だよ」
【輪吾】
「それじゃ、ぼく、もっともっといっぱい、おてつだいするね」
【椿】
「ありがとう、輪吾くん」
あれから、輪吾くんはいつも私のあとをちょこちょこついてきて、色々とお手伝いをしてくれる。
【輪吾】
「おねえちゃん、おかいもの？」
【椿】
「うん、お母さんに頼まれたの」
【輪吾】
「ぼくもいっしょにいく。にもつ、もつよ」
【椿】
「ありがとう、輪吾くん」
重い荷物を持ってくれたことあった。
【輪吾】
「あれ？ おそうじしてるの？」
【椿】
「そうなの。輪吾くんも一緒に手伝ってくれる？」
【輪吾】
「うん！ つばきおねーちゃん、ぼくはどうすればいいの？」
【椿】
「おねえちゃんが、先にパタパタってして、ホコリを落とすから、掃除機で吸い取ってくれる？」
【輪吾】
「わかった。がんばるねっ」
二人で家中の掃除をしたこともあった。
他に、庭の雑草をむしったり、お風呂をきれいにしたり。
お勉強を一所懸命にやっている桜ちゃん。困っているお友達のためにがんばる楓ちゃん。
家のことをやるのは、いつも私だったから、ときどき、ちょっとだけ大変だなって思うこともあった。
でも……今、そんなことは、全然なくなってる。だって――
【輪吾】
「つばきおねーちゃん、こんどはなにをすればいいの？」
【椿】
「輪吾くんがいっぱいがんばってくれたから、もう大丈夫だよ」
【輪吾】
「でも、おねえちゃん、まだおかーさんのお手伝いしてるよね？」
【椿】
「うん。でも、この野菜を切るだけだから。包丁はまだ輪吾くんには危ないから、見ててね」
【輪吾】
「はーい」
お母さんに教わって、少しずつやっているけど……私もまだ、お料理は苦手。
【椿】
「ん……しょっと」
野菜の皮をむいて。てきとうな大きさに切っていく。
輪吾くんが見てる。がんばって『つばきおねーちゃんってすごいんだね』って言ってもらいたい。
そんなことを考えていたからかもしれない。ちょっと、手がすべってしまった。
【椿】
「あうっ」
指先に鋭い痛みが走った。
ちょっとだけだけで切ってしまったところから、みるみる血がにじみ出してくる。
【輪吾】
「おねえちゃんっ！？」
血を見て、輪吾くんがまっさおな顔をする。
【輪吾】
「おねえちゃんいたい？ いたいよね？」
輪吾くんは今にも泣きだしそう。すごく、心配させちゃってる。これじゃ、お姉ちゃん失格かも。
【椿】
「だいじょうぶ。ちょっとだけ失敗しちゃった」
【輪吾】
「血がでてるよ。つばきおねーちゃん、手……へいき？」
【椿】
「うん、へいきだよ」
やさしい輪吾くん。安心させるために、頭をそっと撫でる。
【輪吾】
「…………」
目を細めて、気持ちよさそうにしてるのを見てると、胸があったかい気持ちでいっぱいになる。
【輪吾】
「あ、そうだ」
どうしたの？ ときこうとしたら、いきなり輪吾くんがケガをしているところをぺろっと舐めた。
【椿】
「ひゃんっ！？」
【輪吾】
「つばきおねーちゃん、いたかった？」
【椿】
「う、ううん。痛くないよ。でも、とってもびっくりしちゃった」
【輪吾】
「『ケガなんてなめてりゃなおるんだ』って、おとーさんが言ってたの。だから、なめたらいいかなって……」
【椿】
「ありがとう、輪吾くん」
【輪吾】
「それじゃ、もっとなめるね……あむっ。ちゅ……れろ……」
ケガしたところは汚いからとか、輪吾くんにそんなことさせたくないとか、いろいろと思ったけれど……。
【輪吾】
「ぼく、もっとおてつだいできるようになるから。つばきおねーちゃんが、けがしなくていいように……なるから」
【椿】
「ん……ありがとう、輪吾くん」
とっても優しい男の子。私の自慢の弟。
【輪吾】
「だから、おねーちゃん。ぼくにできることがあったら、いってね？」
いつのまにか、輪吾くんは面倒を見てあげなくちゃいけない弟から、私を助けてくれる男の子になっていたんだ。
指をなめてもらっていると、なんだか……ちょっとドキドキする。
【輪吾】
「おねえちゃん、血がとまったみたい。あとはきれいにあらって、おかーさんに手当てしてもらえば、へいきだよね」
【椿】
「うん、そうだね。輪吾くんのおかげで、おねえちゃん、もう痛いとこなくなっちゃった」
【輪吾】
「えへへ。よかった」
にっこり笑う輪吾くんは、とってもとっても可愛らしくて、きづいたら、ぎゅって抱きしめていた。
【輪吾】
「つばきおねーちゃん……？」
【椿】
「あ……いやだった？」
【輪吾】
「ううん。ぼく、つばきおねーちゃんのこと、だいすきだもん。ぎゅっとされるのもすきー」
輪吾くんも、わたしのことをぎゅっとしてくれる。
【輪吾】
「つばきおねーちゃん。おかーさんとはちがうけど、いいにおいがするね」
【椿】
「……そ、そうかな」
【輪吾】
「うん♪」
すりすりしてくる輪吾くんも、とっても優しくて、あったかくて……まるで、おひさまみたいな匂いがする。
やさしくて、かわいくて、大好きな弟。
【椿】
「輪吾くんといっしょなら、お手伝いもとっても楽しい時間になる」
これからも、いっしょにしたいな。
お手伝いをして、でも……ちょっとだけ、できないことがあったら、輪吾くんもいっしょにしてくれるかな。
【椿】
「ねえ、輪吾くん、おねえちゃんがお手伝いをうまくできなかったら……」
【輪吾】
「ぼく、いっぱいがんばるっ。もう、つばきおねーちゃんがケガしないように、りょうりもおかーさんにおしえてもらうね」
【椿】
「ありがとう、輪吾くん。それでね……おねえちゃんのお手伝い、また……いっぱいおねがいしてもいいかな？」
【輪吾】
「うん♪」