学校から家に帰ったら、りんごが走ってよってきた。
りんご、あたしの弟。
きらいじゃないけど、すきじゃない。
だって、あたしは『おねえちゃん』になんてなりたくなかった。
おねえちゃんになっても……いいことなんて、なにもないから。

りんごが大事そうにだきしめているのは、椿おねえちゃんのおきにいりのレースのハンカチだった。

あたしも、ほしかったのに。
いつもいつも、いっつも！　りんごばっかり！

わるいのはりんごじゃないのに。
でも、それでも……がまんできなかった。
おとうさんもおかあさんも、みんなあたしには『お姉ちゃんだからがまんしなさい』っていう。
でも、りんごは……いつも、みんなにかわいがられている。
だからあたしは、おとうとなんて……ほしくなかった。

あ。こんなこといったら、りんご……泣いちゃうかも。

りんごは、泣きそうな顔をしてあやまった。
ちがう。あやまるのはあたしなのに。

りんごも、さくらお姉ちゃんも、わるいとおもったらすなおにあやまることができる。
でも、あたしは……。

ここにいたくない。このままだと、泣いちゃいそうだった。
あたしは自分のへやに走ってもどった。

あたしだけちがう。
おとうさんもおかあさんも、つばきお姉ちゃんも、さくらお姉ちゃんも……りんごも。
みんな、ちゃんとあやまれるのに。

へやにはいってベッドにもぐりこむ。

だめだって言ったのに、りんごがへやに入ってくる。

いっちゃだめ。わかってるけど、止まらなかった。

こんなこといったら、きらわれる。
ほんとうは、だいすきだけど……あたしがわるいのもわかってるけど、でも……。

ほんきでいったんじゃないって、りんごは……わかってくれる。

だから、すこしだけすなおにあやまれた。

それって……そういうことなのかな。

りんごは、なにをいわれたのかわからないってかおをしてる。

りんご、うそをついてないみたい。
ど、どうしよう……なんだか、かおが……あつくなる。

りんごは、だきしめてたレースのハンカチを、そっとあたまにかけてくれる。

にあわないってわかってるもん。
あたしよりも、りんごのほうが、すなおでかわいいし、やさしい。
りんごがおんなの子で、あたしがおとこの子ならよかったのに。
そとを走りまわって、おとこの子たちにまじってあそんだりしてるから、日やけしてりんごよりくろいし。

ほんとうにばかなんだから。
あたしのことなんて、放っておけばいいのに。

りんごの手をぎゅっとにぎる。
小さくてやわらかい手。

ほんとうは、あたしみたいなすなおじゃないおんなの子のことをわかってくれるのは、りんごしかいないかもっておもってた。
きらいっていってごめんね。
おんなの子みたいっていってごめんね。